移動スーパーとくし丸の師匠、鳥取県・安達商事に学ぶ

「とくし丸」を創業する前に、移動ス―パーのノウハウや実態を教えていただいたのが、鳥取県の大山の麓、日野町と江府町にある安達商事の安達享司社長です。

安達商事 安達享司社長

安達商事の経営するスーパー「あいきょう」では、一九九三年以来、二トン車や軽トラなど複数の移動スーパーでの販売を展開しています。
この「あいきょう」の巡回する地域も典型的な過疎の中山間地で、安達社長は二〇一一年時点で、すでに過疎による客数の減少を心配されていました。
そこで安達社長は、早くも行政との連携を実践し、その形は今でも進化し続けていて、今後の中山間地の買い物難民対策における公民連携のひとつの理想的なモデルを提示してくれています。

あいきょうの移動スーパー

私たちの移動スーパーとくし丸でも交わしていますが、安達商事ではすでに二〇〇八年の時点で鳥取県と「見守り協定」を締結し、移動販売中に高齢者を見守る活動を開始しています。
これが二〇一四年からは県と町からの委託事業となり、見守りの対象は、行政から委託を受けたお客さん以外の高齢者宅にも及んでいて、行政に対して定期的にフィードバックされています。看板だけでなく、業務として本当に意味のある見守りを行っているのです。
その公共性によって、販売車両は、農水省や鳥取県、日野町などの補助金を得て導入しています。さらに燃料や修理、車検費用など、車両の維持費に対しても二分の一の補助を受けています。

二〇一一年からは、「看護の宅配便」と称して、毎月一回、日野町に立地する広域自治体病院の看護師さんが移動販売に同行し、お客さんの玄関先で病院の窓口相談や健康相談を行っています。そこに管理栄養士さんも加わって、栄養指導などもされているそうです。健康不安や病気などについて、わざわざ病院まで出向かなくても、専門家に「ちょっと相談できる」ということは、大きな安心感につながっているのではないかと思います。

また、地元の図書館で運行する軽バンの「移動図書館」が移動スーパーに同行し、本やDVDの貸し出しを行っています。返却は、販売員に頼んで店に設置してあるポストに入れておけば回収してくれます。移動手段の無い過疎地の高齢者が、わざわざ町の図書館や本屋さんまで行くのはたいへんですが、こうして玄関先の買い物と一緒に気軽に本が借りられることで、生活にどれほどの潤いをもたらすでしょうか。
さらに、地元警察と協定を結んで、防犯や交通安全キャンペーンなど、高齢者の安心安全のための協力を惜しまない姿勢を貫いています。

今後、過疎地が直面する課題や、この安達商事の展開を見る時、それは決して「補助金に頼って商売を続ける」というような依存的なニュアンスではなく、存続の危機にある田舎を残すための、より合理的でかつ豊かなものをもたらしてくれる解決手段として、積極的に捉えなおされるべきものではないかと思うのです。

豪雪地帯を行く、あいきょうの移動スーパー

今年六八歳になる安達社長は、一八歳の時に鮮魚店を引き継がれて以降、半世紀にわたって、地域の買い物対策一筋に生きてこられました。今も現役で毎日早朝から車で一時間程の境港まで鮮魚を仕入れに通っているそうです。
安達社長は、口癖のように「これは相対(あいたい)の商いですから」と言います。相対だから信頼が生まれるし、コミュニケーションが楽しい、それが商売の原点だというのです。
インターネットなどでなく、人と人が向き合って商いをするというアナログの発想ですが、とくにこのウィズコロナの時代、人と人が生で出会う商いが、どれほど人の暮らしに役立ち、心を癒しているかと考えます。
人は人と会いたい(=相対)。直接会うことによって元気を練り上げていきます。それはこのデジタルやA Iの時代だからこそ、今後ますます求められる人間的な営みなのではないでしょうか。(了)

移動スーパーの感動の物語!『うちの父が運転をやめません』(垣谷美雨著)

拝啓 垣谷美雨先生

突然のお手紙、失礼いたします。
垣谷先生の新刊「うちの父が運転をやめません」を読ませていただきました。
拙著「買い物難民を救え!移動スーパーの挑戦」を参考にしていただいたということで、各所に思い当たるシーンが散見され、本当にうれしく、楽しく読ませていただきました。

先生の本の中でまず印象に残ったのは、田舎の食の豊かさです。
P 141にあるような、風景と食が密接につながっているのが田舎の豊かさなんですよね。そして風景と暮らし。満天の星や冷たい水道、ゆっくりできる縁側のある畳の部屋なんか、都会のストレスがスーッと抜けていく気がします。

それから、移動スーパーを頼む人の心境、リアルに再現していただきました。
P 151「買い物難民を見捨てる気ですか」の言葉ですが、実際にお断りする時には、それに近いものを聞くことがあります。頼む方の状況は、ほんと切実なんですよね。
それと移動スーパーが巻き起こす旋風。それまで死んだような凪の状態の田舎が、移動スーパーが回り始めることによって、なんか活性化してお年寄りたちがイキイキしはじめるんですよね。

移動スーパーの良いところと大変なところ、ほんとうまくストーリーにのせていただいて、大きな感謝を感じています。

この本のもう一つのテーマは、転職する人の不安や、家族関係の葛藤ですね。
私も今、54歳で雅志と同世代なので、我が事のように身に染みました。P 287のような、会社を思い返す雅志の心境にほとんどの人が共感を覚えるのではないでしょうか。そして地味に私が納得したのは「あの頃の大人は、誰一人として人生を楽しむことを教えてくれなかった」という言葉です。
私はもうこのセリフを広く世に出してほしいがために、この御本を映画化・ドラマ化してほしいぐらいですw
ほんともう「いい大学へ、いい会社へ、会社が嫌なら公務員へ」と、これだけの画一的な価値観一色でしたね。そしてそれがなんと驚くべきことに、今も全く変わっていない。
2〜3年で、技術も価値もシステムも激流のように変化する社会の中で、その凝り固まった価値観だけは全く変えないままなのですから、親も子も、まったくたまったものではありませんよね。
最近、引きこもりのことをよくN H Kなどで取り上げていますが、私は、いつも「親もかわいそうだな」と思ってしまいます。「働かざる者、食うべからず」とか、「もっと勉強していい大学へ行け」とか、私たちがシャワーのように浴びてきた価値観を子どもに押し付けたら、このタフな生産性砂漠のような社会の中で、引きこもるのも当たり前ですよね。だけどじゃあ親はどうしたらいいというのか。
その辺の葛藤が先生の御本の中にリアルに描かれていると感じました。

最後に、鶴子さんのエピソードには泣きました。
恥ずかしながら、私も鶴子さんと同じような事情にありますので。
参考文献に無いはずwの助手席予約って、何を言い出すのかと思ったら・・・
「明日の予約は、鶴子さんだ」
・・・やられました(泣)。

長文失礼いたしました。
先生におかれましては末長くお元気で、益々のご活躍を祈念しています。

敬具

村上稔

『うちの父が運転をやめません』垣谷美雨 著 角川書店https://www.kadokawa.co.jp/product/321811000204